
【介助マッチングプロジェクト】北海道浦幌町にて実証実験を実施しました

吉澤葵
2024年9月6日
人口4100人、高校がない街で考えたこと。
9月初めの5日間。この暑さはいつまで続くのやらという時期に
SFC-IFCのプロジェクトの一つ「介助マッチングプロジェクト」は
北海道の十勝郡浦幌町を訪れました。
人が忙しなく行き交う東京を離れ、飛行機で2時間弱。
帯広空港に降り立ちそうな瞬間から「広い・・・」とその自然の広大さを実感しました。
今回の目的は、介助マッチングプロジェクトで絶賛製作中のアプリに対する実証実験やヒアリング。朝日新聞社主催の [ 大学SDGs Awards2024 ] にて、一般社団法人十勝うらほろ樂舎の方々から自治体賞をいただいたことがきっかけで行われたスタディーツアーです。
介助マッチングプロジェクトは、脳性まひの重度身体障害当事者である篠田翔太郎さんの活動を発端に生まれたプロジェクトです。篠田さんは、車椅子で日常を過ごしており、普段の外出はヘルパーサービスを利用することがほとんどです。しかし、ヘルパーサービスや介護タクシーなどは、いつでも気軽に依頼できるわけではなく、会社の人員不足などが原因で、予約が取れないこともよくあります。
いわゆる「健常者」の人たちが、ちょっとした外出を気軽にすることが、篠田さんのような重度身体障害のある方々にとっては、決して当たり前のことではないのです。
現在、日本では少子高齢化や人口減少が進行しています。かねてより言われていた2025年問題まで、いよいよ残り1年となりました。2025年には、「団塊の世代」の全員が後期高齢者である75歳に達します。このような社会の大きな流れの中で、介護などの福祉も大きな影響を受けることになります。すでに人手不足が深刻ですが、厚生労働省によると、2040年には約69万人の介護人員が不足するとの試算も出ています。
この流れは、障害のある方々にも大きな影響を及ぼします。入居サービスにせよ、訪問サービスにせよ、福祉事業所が見つからないということは、彼らの生活を直撃します。それは「あったらいいな」というレベルではなく、「無ければ生活そのものが続けられない」ことも多々あるのです。
介護をはじめとした、障害のある方々へのサポートは、既存の福祉サービスだけではもはや十分ではありません。私たちは柔軟な思考を持ち、既存の枠組みだけでなく、新しい道を模索していく必要があります。
そのような思いで、「誰もが安心して気軽に外出できる日々を」というコンセプトのもと、人々が街中で介助し合える機能を備えたマッチングアプリの開発に取り組んでいるのが、介助マッチングプロジェクトです。
今回の5日間の滞在では、SFC-IFCの中から5人が浦幌町に住む多くの方々と交流することができました。初めての地でこれほど多くの方々と出会い、意見交換や実験を行えたのは、間違いなく十勝うらほろ樂舎の近江正隆さんと佐藤彩羽さんのおかげです。近江さんと佐藤さんには、たくさんの交流の場を設けていただき、私たち一人ひとりと大切に向き合って接していただいたことに、心から感謝しています。
今回のスタディーツアーに先立って、数ヶ月前から十勝うらほろ樂舎の方々とミーティングを繰り返しました。私たちの活動の中心は、その対象が「障害」や「障害のある方々」にあります。一方で、浦幌町の最たる問題意識は人口減少と、それに並行して進む高齢化。その上で私たちが浦幌町へ行き、何ができるのか、何を得るべきなのかを事前にある程度明確にしておく必要がありました。
確かに一見して「障害のある人」と「高齢者」では対象が異なるように思えるかもしれません。しかしながら、このプロジェクトのコンセプトは「誰もが気軽に外出できること」。その意味では、障害のある方であろうと、ご高齢の方であろうと、日常の外出について問題を抱えている方々であれば本質的に私たちが真正面から向き合うべき存在であることに変わりはありません。
それよりもプロジェクトとしての実際の問題は、「スマートフォンの利用状況」にあります。アプリでのマッチングという以上、スマホの利用は前提条件になります。障害のある方でもスマホを使うことができない人は多くいるので、そういった方々も包含するにはどうしたらよいのかという議論も重要ですが、それと同じか、あるいはそれ以上に現在のご高齢の方々にスマホアプリの利用を勧めるというのは難しい課題に思えました。
だからこそ、今回の私たちの滞在目的として、障害のある方へのヒアリングや実験というよりも、むしろ浦幌町に暮らすご高齢の方々と交流し、話を聞き、実験に参加してもらって実情や新しい視点を把握するということが重要だと考え、それを前提とした滞在内容にすることを事前に決定しました。
結果、今回の旅を通して、関東圏に住む私たちと地理的に距離のある北海道浦幌町の地域住民、約40名と直接関わり、意見交換をさせていただきました。関東圏で暮らす中では見えてこない、その町ならではの問題意識や生活環境など、様々な発見・学びがありました。そしてアプリの改善点や今後考えていくべきことなどがより明確化されました。
浦幌であたたかく迎えてくださったたくさんの皆様に感謝の気持ちを胸に、
今後も介助マッチングプロジェクト、邁進していきます。
プロジェクト概要はこちら